1月中旬。
社内で最初に「辞めるんだって?」と声をかけてきたのは入社当時にお世話になった1年先輩。先月中旬。ずいぶん耳が早いなと思ったがそういえば一時、人事部にいたんだった。
2月某日。
そっと近づいてきた同期が何故か声を潜めて「聞いたぞ」。って別に不祥事を起こしたわけでもなんでもないのだが。「先を越されたな。オレも考えたことあるんだよなー」。そうなのか。まったくの別部署で新人研修以降は軽い世間話をごくたまにする程度だったが、定年までに平取くらいまではいけるコースに乗ってるとなんとなく思ってたが、そいえば最近の人事異動では名前を聞いてないような。早期退職に関するあまり表に出てない会社の優遇制度について少し説明する。「これくらい出る?」とそっと指を何本か立てて確認してくる。いい線ついてる。
2月某日。
若い頃同じ部署に数年いた同年齢の社員が「辞めるんだってな」。中途入社なので「オレは退職金満額出ないんだよ」となぜか愚痴られる。知らんがな。んなことより、いい年なんだからそろそろ 体重を 100キロ以内に落としたらどうか。退職金もらう前に死ぬぞ。
2月某日。
会社の玄関先で後輩とばったり。「辞めるんですかあ。寂しくなります」。ありがとう。社交辞令でもうれしいよ。用もないのにエレベーターにわざわざ乗り込んで来んでも。間近で見ると、けっこう老けたねえ君( 心の声)。自分はもっと老けてるが。てか、実は偶然、うちのすぐそばに越してきてて、これからもどうせたまに会うじゃん。
2月本日。
トイレの前で十年ほど前まで一緒の部署にいた後輩とばったり。「辞めるって聞きました。お世話になりました」。いまや中堅のエース的な彼のご丁寧な挨拶は痛み入るけど、一瞬ぎょっとするほど青白い顔と窪んだ目はどうした。君がマジメでいい奴なのはよく知ってる。死ぬなよ。